「不動産法律セミナー(東京法経学院出版)」に、2回にわたって掲載された文章の内、1回目分です。(2000年7月号掲載)                                              --->後編はこちら

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第6回

日本初の総合的法律・経済関係事務所

市民ニーズに沿った
士業経営の新しい形

(前編)

構成●不動産法律セミナー編集部
文●たいよう合同事務所会長 工藤力

 前回まで、調査士・社労士・司法書士の事務所を取り上げてきたが、今回から2回に渡って、日本で初めての総合的法律・経済関係事務所を扱っていく。
 青森件八戸市の「たいよ合同事務所」は、24年の歴史を持つ合同事務所である。常に市民ニーズに応える法的サービスを目指すという姿勢から、地元依頼者からの信頼も厚く、またその経営方法は、都会などの若手士業者からも注目されており、合同事務所のパイオニア的存在である。とはいえ、現在まで順風満帆に来たわけではない。各士業制度などの規制が強く、思ったような経営ができるようになるには、非常に長き時間を要したのだ。
 今回・次の2回で、たいよう合同事務所の現在までの経過と、合同事務所経営の可能性と課題を、事務所会長である工藤先生にご紹介いただく。将来の士業を担う読者にとって、たいよう合同事務所の理念・経営法は、非常に参考になるだろう。(編集部)
 

右も左も分からずに開業

 本誌の読者層の多くの方が、不動産関連の資格取得をめざしている と思いますので、司法書士、調査士、行政書士としての観点から説明させていただきます。
 その前に私自身の説明を若干させていただきますと、昭和48年に貴学院の的確な答練のおかげで3ヶ月の短期学習にもかかわらず、調査士試験を1次、2次一発で合格し、計画性と実務経験が全くないのに、その年の12月に合格証書を頂くと同時に開業しました。
 今思うと、開業資金が4万円しかなかったので、無謀だったと思いますが、25才という若さゆえにできたことだったと考えます。しかし、昨今の情勢は当時と異なりますからとても今の方にはお勧めできません。
 当時は景気がよかったせいか、開業当初から結構受注がありました。しかし実務が全くわからない状態でしたので、わざと同業者と共同受注ということにし、自分はポールマンを買って出て実務を学んでいきました。今考えると共同事務所構想の根っこはここにあったのかもしれません。したがって、私には師匠というものがいないのです。 実は、実務の勉強しようといくつかの同業者を訪ねてみたのですが 、調査士は同業者にさえも雇用は禁止されているということを教わりビックリしました。また、普通の開業挨拶を新聞とじ込みで出したら大騒ぎとなり、法務局の支局長より厳重注意され、常識の通じないムラ社会の業界体質に唖然としたものです。これも、師匠のいない故の業界に対する無知のなせるわざだったかもしれません。

市民の利便と制度のズレ

 翌年昭和49年に、「調査士が農地転用申請することは行政書士法違反だから、行政書士の資格をとるように」と調査士会から通達があり、支部の若手全員が受験しました。当時の試験は、多少の法律知識と時事について作文が書ければほとんど全員が合格する簡単なものでした。
 多少なりとも行政書士の実務が出来るようになってきたとき、農家の分家の開発許可業務を受託することになりました。当時当地では、開発許可制度が施行されたばかりで市役所担当者も内容についてよくわからない状態でしたので、担当と一緒に検討しながら進めていきました。相続登記、分筆登記、造成設計、住宅設計、開発許可申請、贈与登記申請、税務申告等と、小粒ながらフルに各専門家の間を取り持つことになり、ワンストップ処理の必要性を痛感しました。
 どの資格者が中心になって事務処理を遂行しても構わないとは思いますが、中心となるべき資格者は、自分の業務以外はボランティアとなるので、複雑な案件は割にあわないのです。一体となって受託(収入が一本化)し、専門担当ごとに処理することになると、割を食う人がいなくなるので、喜んで依頼者の要望に応えれると考えるのは、私だけでなく、この業界の人であればだれでも考えることと思います。
 しかし、残念ながら最近までの各士業界の体質は(現在でも変化したとは思えませんが)、依頼者の利便より自分の業界のみの繁栄を追求していましたので、他士業といがみあうことはあっても、協調しようと考えることはなかったように思います。
 その後、次第に、開発許可のプロとして認められ、業務が繁忙するようになればなるほど縦割りになっている資格制度の欠点が目につくようになりました。「こんなに利用者にとって不便な資格制度は、やっぱりおかしい。なんとかすべきだ」という思いが次第につのっていきました。そんな中、業務提携していた相棒の司法書士の1 坪事務所が取り壊され、ある程度のスペースを確保出来る新築貸事 務所として生まれ変わることとなりました。しかし、1人では事務所経費が増大し大変なわけです。実は、それまで私自身の事務所は、知人の不動産事務所の一部を無償で間借りしていた状態でした。お互い、同じ法務省管轄の資格でありながら、司法書士、調査士の縦割り制度に閉口していたものですから、自分の持っている調査士、行政書士と相棒の司法書士の3資格で、まがりなりにも共同事務所が出来ることになるので、昭和51年1月に初めて2人で収支共同事務所を発足させたわけです。
 ただ、依頼者には大変喜ばれ、評判を得ていきましたが、この形態に対する同業者の締め付けは尋常でなく、規制緩和の神風が吹く最近までは常に解体の危険にさらされていました。

共同事務所経営の3形態とは

 読者の方に若干のレクチャーしてみますが、我々の業界における共同(協同)事務所に対する考え方は、おおまかに次のように3つに分類出来ると考えられています。

@やとわれ型
 一つは、雇用型で、ボスに給料若しくは歩合でもよろしいのですが何等かの形で雇われている形態です。この形態について、つい最近まで、少なくとも司法書士、調査士、行政書士の世界では違反行為という考えが主流でした。実際つい、4,5年前のことですが、日行連で主催しているネット上で、私が、「これからは、後輩の教育、訓練の為にも、行政書士による行政書士の雇用を認める時代になってきている」と発言したら、殆どの会員から「そういうことは認められない」と総スカンをくったことをなつかしく思います。業務習得も経営ノウハウも常にゼロから出発の業界に、進歩はありえないと思ったものでしたが。

A個人+個人
 もう一つは、経費共同(協同)型といって、単に事務所フロアを経費分担割合を決めて一緒にいるという形態です。これは大分昔より一般的に認められていますが、個人事務所の集合とかわりません。これより、若干進んで事務員等も共同使用という形のあります。昨年5月に法務省・大蔵省及び通産省が結論に達し発表した「総合的法律・経済関係事務所」というものも、この若干進んだ経費共同事務所は問題ないとしています。

B収入・経費1本型
 最後は、収入経費共同(共同)形態です。収入を一本化し、かつ経費も一本化する形態です。同じ士業においては、現時点では、違法だと異論を唱える業界はないと思いますが、ほんの2,3年前までは司法書士、調査士、行政書士業界では問題視されていた形態です。もう一歩進んで、今では法人化の話題がでています。私は、依頼者の側に立てば法人化は絶対必要だと考えるものですが。雇用型、収支共同型の議論は、同じ士業間においては容認に向かっていると思いますが、異なる士業間においては、未だに異論が多いのです。特に弁護士界においてはその傾向が強く、昨年11月の日弁連業対委員会主催の日弁連岩手全国大会で、日弁連側は、「法改正までしないと出来ないのでは」との考えを明らかにしました。

事務所は例えれば「総合病院」

 私の事務所は、収支共同、経費共同、雇用形態のすべてが混在した形態です。どちらかというと、限りなく擬似法人に近い形態です。このようにいうと、なかなか理解しづらいと思いますが、前述の「総合的法律・経済関係事務所」の形態とほぼ同じと考えてもらうとよろしいと思います。よくわからないかたは法務省のホームページでみてもらうとよろしいかと思いますが、その内容と同じように、うちには総合窓口があり、総務部門もあります。混然一体ではなく士業のセクションごとにブースがわかれており、業務は専門ごとに明 確に分離されて処理されています。しかしながら収入経費については、一旦全部プールしたあと、パートナー規約にもとづい再分配しています。再分配において、全く収入が同じということではなく、個人単独収入と認める売上げもありますし、売上げ高に応じた差も若干あります。
 お客様から見た場合、たいよう合同事務所は総合病院を訪ねたようなような雰囲気を創造していただければイメージがわくでしょう。つまり、自分がケガをしているのであれば、真っ直ぐ外科にいくでしょうし、また、風邪をひいているのであれば、真っ直ぐ内科を訪ねるでしょう。しかし、どこ悪いのかよくわからないときは、窓口診断を訪ねると確実なことがわかるでしょうし、簡単な病気ならば、その場で解決してしまうかもしれません。支払いは、伝票をいただいて会計で済ませます。
 これと同じように、大抵の依頼者は、真っ直ぐ自分の目指す専門士業を訪ねます。しかし、漠然としたもの、総合的なものは窓口担当部門で交通整理してから担当にまわしますし、単純な相談、契約書作成等は、窓口で即解決しています。直接受けた仕事でも、他部門(士業)と一緒に解決したほうがよい場合は、合同で依頼者と面談することもままあります。同じ事務所内に、複数の士業が複数人いる体制ですし、仕事を処理した場合、他部門が処理してもその収入がプールされるので結果として自己部門もうるおいますから、合理的かつ真剣に依頼者と向き合うことができます。

依頼者に最高の立地条件

 人によっては、場所を選ばないという方もいますが、私は事務所の場所選定は開業における大変重要なポイントだと考えます。ポイントのまず第一は駐車スペースがあることです。大都会では交通網が発達していますので必要ないと感ずる方もいるかもしれませんが、地方都市では必須条件です。たいよう合同事務所の敷地は約400坪ありますので、30台位の駐車が可能となっています。小規模な同業事務所では駐車スペースがないところも多く、依頼者から不満が出ているようです。第二に、法務局、裁判所に近いことです。法務局や裁判所の付近は車両が込み合います。当地はハローワーク、検察庁等の入っている合同庁舎ですので、駐車待ちの車両がいつも列をなしています。依頼者にとって、駐車スペースを求めて時間をロスするのは苦痛なことです。また打ち合わせ後、裁判所に依頼人と出かけることも考える必要があります。その点、当事務所は、どちらにも歩いて1分程度です。第三にバス停が目の前にあることです。バスでしか来られない方に便利ですし、宣伝効果も抜群です。
 このように、たいよう合同事務所はバツグンの立地条件にめぐまれていますが、決して坐して好条件の場所にありつけたのではありませんので誤解しないで下さい。それなりの運と努力が必要でした。
 建物は自前ですので、増改築等の自由がきくうえ、しきちは借地ですので土地取得資金がいりません。土地の契約並びに建物の所有者は事務局法人名義(株式会社たいようヒューマンネットワーク)にしています。個人名義ですと相続の問題、パートナーの入退出時に問題が発生しますので、現行法上やむをえない手法です。事務局法人とは、専門家から業務処理の委託を受ける会社です。名称は、「株式会社たいようヒューマンネットワーク」といいますが、アウトソーシング以外に、人材派遣業、経営コンサルタント等をしています。事務所のパートナー、準パートナー以外は、事務局法人の従業員です。
 事務所はできるだけ照明を明るくし、かつ落ち着いて雰囲気を出すようにしていますが、私が応えるよりも所員の言葉を直接見ていただいたほうが確かでしょう。

事務員が語る「たいよう合同事務所」

総務担当Aさん
 毎日、仕事におわれて1日の過ぎるのが早いのが残念です。皆さんの仕事がしやすいように影で頑張っています。介護保険対象者も結構いますよ。
司法書士部門Bさん
 宅急便より早く、タクシードライバーにまけない走行距離で 頑張っています。先生の「早くもっとスピードをあげて」の指シグナルがでると自然に体が動いてしまいます。
調査士部門Cさん
 中にいるより、体を動かしているのが好きですから自分にあっていると思います。先生は、親切に教えてくれます。
行政書士部門Dさん
 大規模開発が少なくなってきましたが、細かい仕事が増えていますので忙しいのには変わりありません。
税務会計部門Eさん
 パソコン操作になれてきました。いろいろな経営指標をだせるように頑張っています。
弁護士部門Fさん
 破産専門で担当しています。民事再生法を適用する会社が増えそうなので勉強中です。先生が忙しいので出来るだけフォローしようと思っています。
その他の声
 片意地はらず、楽しい職場です。責任ある仕事なので大変ですがやりがいがあります。

近辺の単独事務所とどこが違うか?

 比較すること自体無意味なことですが、たいよう合同事務所と近辺の単独事務所では、パソコンでいうとベーシック時代とウインドウ時代くらいフットワークが違うのではないかと思います。当事務所では必要に応じて、1度の相談で多くの専門家の意見を聞くことも可能です。手前味噌ではないのですが、最初から私の事務所にこられた方はラッキーだと思います。というのも、仕事の内容によっては、すでに他から引合いのある場合とか、訴訟の相手方になっているとかで受け入れることが出来ないケースも結構あるのです。他部門が受けている顧客も事務所全体の顧客ととらえて、仕事の受入れには細心の注意を必要とする(顧客管理を徹底する)点が、事件処理遂行上単独事務所と決定的に異なる点です。たいよう合同事務所は、形態が現在ではめずらしいので目立ちますし、宣伝しなくとも知名度は高いと思います。話題性がありますので、マスコミからの取材も結構あります。また、それだけに、しっかりとした仕事を求められますし、それに応える責任を感じています。事務所全体で見たばあい、社会活動もさかんで他事務所に比較し、同業団体だけでなく地元にも貢献している方だと思います。依頼者をみても、一癖も二癖もある客は当事務所には入りづらいみたいですから、客層は結構良いと思います。
 当事務所は、「迅速かつ的確に、市民の求める法的サービスを提供します。」「単に利益を追求することなく、権利擁護と社会秩序の安定に寄与するよう努めます。」という理念を共有した集団です。常に現状に甘んずることなく、よりよいサービスを市民に提供するため事務所体制、能力アップに努力しています。

(次号は合同事務所の良点や課題について掘り下げていきます)  

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