「不動産法律セミナー(東京法経学院出版)」に、2回にわたって掲載された文章の内、2回目分です。(2000年8月号掲載)                                  --->前編はこちら

資格

現場

第7回

日本初の総合的法律・経済関係事務所

事務所共同化にみる
士業経営の将来性

(後編)

構成●不動産法律セミナー編集部
文●たいよう合同事務所会長 工藤力
 前回、今号2回にわたって取り上げる「たいよう合同事務所」(青森県八戸市)は、全国でもまだ珍しい複数資格の共同事務所である。前号では共同化に至った経緯と事務所の構成、今号はさらに共同化のメリットや共同化に必要な要素、また今後の士業経営の展望について、事務所会長である工藤先生にご紹介いただく。21世紀を士業の一員として生き抜くヒントを、工藤先生の言葉から学んでほしい。(編集部)

ニーズに応えるなら「共同化」

 私は、現在、司法書士、土地家屋調査士、行政書士、建築士の資格を登録しています。資格をもつだけでプロとしてお客様からお金を頂けるのでしたら良いのですが、世間はそんなに甘くありません。実践と経験に裏打ちされた、自分の一番得意な分野で渾身の勝負をしてお客様に満足していただき、結果としてやっと報酬にありつけるのです。頭の良い人は、要領よく短期間に知識を得ることが出来ますが、実践と経験についてだけは時間をかけないことには不可能です。プロとしての能力は、どのような方も時間をかけた部分しか身につけることは出来ません。また、いかに万能な方でも、お客様に我々のサービスを提供する限り、時間的な制約は避けられません。司法書士においては、今までの補助者の立会業務を禁止する単位会が増えてきています。必然的に、共同事務所形態が有利となります。とすると、依頼者の多様なニーズに応えたいと思ったとき、様々な専門家、また多数の資格者が必然的に必要となるのです。
 当然、現に実務に携わっている方は、資格者間の提携を通じて、お客様のニーズに応えようと努力していることでしょう。しかし、実際のお客様の要望は、その場での結論と、リーズナブルな回答です。したがって、一人で開業している場合、提携の相手方の時間的都合を考慮し、迷惑をかけたくない気持からついつい自信のない分野まで相談に乗らざるを得ないのが実情ではないでしょうか。私も、過去に自信のない分野なのに相談に乗ってから、あとで訂正の電話を差し上げた方もままありました。依頼人は、当然相手が専門家と考えていますから、その先生がどの程度の知識と経験で話されているか理解できずに、すべて信じてしまう危険があります。特に、弁護士さんの場合、すべての法律に対する専門家として絶対的に信じてしまうので、後で修正が困難なことがあります。
 このようにしてみると、総合合同事務所の必要性は、お客様にとってのみ必要なのではなく、実は、専門家自身のトラブル防止の為にも必要なことがわかります。私の場合、自慢することではありませんが、現在、窓口相談と経営実務を主たる業務としており、しばらく実務の現場からはなれているので、今、資格者としての業務を完璧に出来るかどうか、正直なところ自信はありません。専門的である分野だからこそ、現場を離れただけで自信がなくなるものなのです。
 日本には、いろいろな資格制度があります。巷では、弁護士は、オールマイティの資格だから、今の司法制度改革で弁護士が大幅に増員される結果、他資格の分野まで弁護士が扱うようになると心配する方がありますが、私は、そういったことは杞憂と考えています。やってもいいということと、やれることは全く別物で、特にプロの業務は、その業務ついて特別訓練受けたものが、持続して業務に携わっている間だけ専門性を維持出来るものだと考えています。逆にいうと、専門性のないものを独占すべき理由はないと思うのです。但し、外見上素人や補助者がたまたま処理できる案件だからとして専門性がないものとは決めつけられませんが。

情報量の多さで差別化を図る

 いろんな資格者が事務所で一緒に働くことになって初めてわかったことは、その分野での情報収集力です。これが、他資格者と共同する最大のメリットなのです。ある分野の専門家のもとには、その分野の専門家でないと入手出来ない情報、ノウハウが集まります。図書の選択もそうですが、仲間内の情報も大変重要です。したがって、当事務所において集合された各分野における情報の蓄積は、単独事務所の比ではないと考えています。その情報が全員の共有物となるので、一人一人の能力は特にすぐれていなくても、全体的にみたとき、依頼者は能力以上に評価してくれます。おそらく、図書並びに情報の収集量においては全国のどの他事務所にヒケをとらないと思っていますので、地方における不利を感じたことはありません。地方新聞の取材に対しても、地方から逆に中央に知恵を運べる時代が来たと答えた記憶があります。
 専門分野以外にムダな情報収集に力をそそぐ必要が無くなれば、専門分野を掘り下げる時間的余裕が生まれます。したがって、地域の専門家のリーダー的な活動をすることが可能になります。依頼人のニーズに応じた専門家を一同に介せるということは、依頼人の絶大な信頼を集めることが出来ます。私の場合、依頼者との相談途中、ちょっとしたことでもその分野の専門家も意図的にいれています。同じことを話しても、依頼者の信頼度・納得度はバツグンです。その結果、相談業務からも立派に収入を得ることが出来るのです。相談業務ではお金を頂かないと豪語する同職もいますが、相談者は、満足すると請求がなくとも黙ってお金を支払うものだと実感しています。
 弁護士業務を例にとってみると、総合合同事務所ほど合理的なものはありません。民事事件においては、事件内容の分析が的確であれば、ほぼ勝負が予測出来るものが増えてきます。実際相手方の弁護士さんの準備書面を検討すると、専門的になればなるほど、ピントのズレているものに出くわします。司法の迅速、的確な処理の為にもいろんな分野の専門家集団の協力が必要とされていますので、総合的法律・経済関係事務所の形態は有用です。

幅広い専門性で成長できる

 また、当事務所の専門家の中には、法律分野以外の専門家もいます。情報システムの保守と改善の専門家です。彼のおかげで、事務所内職員のコンピュータ処理に対する能力アップと、内外のネットワーク構築が可能となりました。最近のネットワーク被害の理解も深まりました。したがって、一見関係ないと思える専門家も、社会的必然性からの存在意義を考えると、生身の社会の為にある道具としての法律を利用する立場にとっては必要なことと思います。資格者集団のメリットをさらに発展させて、企業家支援、法人に対するコンサルタント、個人のスキルアップに対する総合的指導が可能となります。つまり、今までに全く存在しない新しい業務が創造されることになります。事務局法人として発展させた株式会社たいようヒューマンネットワークは、他に類のない専門家との密接な提携という新しい事業で地域に貢献し始めています。これも、政府見解の、総合的法律・経済関係事務所の肯定があるからこそ堂々とアピールが可能となりました。

共同化は”地方だから出来た”のか

 よく、事務所の説明をしたあとに「地方だから総合的法律・経済関係事務所があるのですね」とか、「地方にはそのような需要があるから成り立つけれど、都会では」とかいわれます。私は、いつもこの質問に面食らうのですが、「もし、地方に需要があって都会にないのであれば、地方には共同(協同)事務所が沢山なければならないですね」「地方で資格者を集めるのは、数が限られていますから東京の比でなく大変なことですよ。逆に、地方においては競争が比較的おだやかなだけ、一人でも事務所経営することが容易なので、わざわざ共同(協同)しようという気持ちにはならない方が多いですよ。」と答えます。
 事実、青森県にも、私の事務所以外の本格的な共同(協同)事務所はありません。外見上たまにあったとしても、夫婦、親子、兄弟同士のたぐいです。お隣の岩手県でも、私の知る限りでは1事務所です。つまり、このような質問なさる方は、当初から共同(協同)事務所の成立を否定的にとらえている方だと思います。

複数資格の活かし方

 また、ある方は、東京には、多数の資格者がいるので、複数資格でやるより、一つの資格を掘り下げた方がよく、地方は複数資格の方がやりやすいのではと言います。とすると、地方の開業者の中には、複数資格者が沢山いることになりますが、地方と言われる青森県でさえ、極少数の実質的な複数資格開業者がいますが、東京に比べて多いとは全く思いません。実質的と言うのは、事務所看板を見ますと行政書士との兼業は比較的多いのです。しかし、これは、農地法申請の為にだけに兼業しているのであり、殆どの方が会費程度の売上げしかしていないと断定できます(この点をとらえて、複数資格事務所が多いということなのでしょうか)。
 つまり、士業の業務というのは、都市も地方も片手間に出来る業務は殆どないことは同じだということです。複数資格をもっていても登録していない方も結構います。なぜなら、今までも、ほかの先生が誌上で紹介したとおり、自分の専門分野に徹し他の開業者と提携した方が、経営安定につながるからです。しかし、私は、このことから読者が複数資格を取得することを否定するつもりはありません。逆に、単独事務所だからこそ、総合判断をするために、複数資格分野についての幅広い知識は重要です。自分の得意とする専門分野を磨くためにも勉強は必要なのです。
 私は、複数の資格を登録していますが、これは、事務所規模拡大過渡期において、同士業の複数専門家が必要になり(例えば司法書士の立会業務時間が重なる)、経費節減の観点から取得したもので、登録資格全部の業務を遂行しようと考えて取得したものでは全くありません。以前、登記所が各町村単位に存在し、事件も単純なものが多かった時代には、地方においては、単一資格より、複数資格の方が、依頼者が様々な事務所を渡り歩く必要がないと思われたかもしれませんが、近年急激に登記所の統廃合が進んだ結果、地方でも中核都市に業務並びに資格者が集中するようになり、大都市と同じような傾向になってきています。

地方独自のメリットとは

 したがって、私の考える当事務所形態が存続している理由は、地方の特異現象ではなく、総合事務所形態の必要性を感じ実行した人が他の地区にはいなかったからだと思っています。確かに、地方においては、弁護士事務所は極端に少ないことは事実です。しかしながら、自分の専門分野を越えて業務をしてはいいということにはなりません。弁護士業務以外の士業数は地方でも十分満たされていると感じています。この点から、弁護士も加えた合同事務所は、弁護士が重複する他士業の分野を抱えこむ必要がなく、紛争処理に特化出来る結果、弁護士過疎による法的ニーズ対応不足を補えるというメリットがあります。この視点からは、都市部と比較した、地方における合同事務所の唯一ともいえるの良点です。
 しかし実際には、総合的法律・経済関係事務所の潜在的ニーズは、地方より複雑な案件の多い都市部の方が大きいのではないのでしょうか。私は、東京の事情に精通しているわけではありませんが、たとえ東京に弁護士が沢山いるとしても、行政書士の分野をしている弁護士は、その時点で弁護士という資格をもった行政書士なのであり、登記を専門としている弁護士は、弁護士という資格をもった司法書士にしかほかならないのであって、その分野で特別訓練を受けた他の専門士業の方と対等に競争するというのは至難の技ではないかと思います。

パートナー探しは結婚さながら

 初めて相棒と共同事務所を始めようと考えたときには、結婚生活を始めることと全く同じと考え、慎重に慎重を重ねて検討しました。まず共同事務所が、自分の目指すサービスに不可欠という新年を確固たるものとすべきです。その後、相棒の全人格を見極めて大胆に行動するのです。そして一旦、一緒になったら相手の行動全てに目をつむる位の度量が必要です。沢山の種を蒔いても、芽が出るのは、ほんの一部です。つまり、上手くいかないで当たり前だという位の気持ちの取組みが必要です。
 よく、共同事務所は失敗すると言われてきました。確かに、永久に共同事務所が存在しつづけなければならないのであれば当たっていますが、1年存続すれば成功だと考える気が軽くなります。かなりの業務量をこなしている同士でないかぎり、ある程度のメドが立つまで、かなりの金銭的な苦労が伴います。しかし、信念をもちつづけ、節約に節約を重ねる必要があります。単独事務所と異なり、一定の豊富な資金が必要だからです。ある程度共同事務所形態が整ってきたとき、さらなる発展の為、新パートナーを取り込むには自分の得ている収入の半分を差し出す度量が必要です。しかしながら、苦労もここまでで、さらに、事務所形態が大きくなってくると、面白いように人材が集まってきます。
 私が、何を言いたいかというと、器用同事務所経営の成功はリーダー次第だということです。ワンストップサービスに対する需要があることは確実です。リーダーになることに自身のない方は、無理せず自分にふさわしいリーダーを見つけることです。

ようやく共同化に良風が

 私は、共同事務所形態(法人形態なら尚更いい)は依頼者のニーズに応える形態として絶対有用だと確信しています。なぜなら、依頼者の中には全国を歩いいる方もいますが、一様に、「今までは単独事務所のサービスに疑問をもたなかったが、貴事務所を知って、これこそ本当のサービスだと認識した。」といいます。そして、他地区に転勤されても、当事務所にいろいろ相談を持ち掛けてきます。そして「こちらにも、貴事務所みたいなのがあればいいのに、是非支店を作ってくれ」と言われます。「支店どころか、共同形態事体に異論がある業界ですから」(昨年の5月以前はこのように答えていました。)とお引取りねがっていたのですが、ニーズは全国等しくあると思っています。
 しかしながら同業同士であれ関連士業同士であれ、共同事務所形態をとるのに、今程、良風が吹いている時はありません。なぜなら、共同(協同)事務所を開設するのに、同業、関連士業界の目を気にしなくてもよくなったからです。つまり、本人のやる気で、今まで以上に依頼者に対して良質のサービスが出来、新しいニーズに応えられる外部環境が、昨年5月の政府見解で整ったからです。政府見解も、各士業からの主導権圧力にはばまれ、必ずしも使い勝手いいものとは思いませんが、私の感じでは無から有が生まれたほどの変革を感じています。これをどのように生かすかは、ひとえに利用するものの努力にかかっていますが、この記事だけでなく、事務所共同化などについてご質問・ご相談があれば、私の過去の経験が読者の皆様に少しでもお役に立てればと考えています。

未来への新たな挑戦を

 今後、資格制度はどのようになっていくのか、私には昨今の政府見解、自民党見解、司法制度調査会の動向からおぼろげながらも、見えてきたような気がします。少なくとも、競争の時代になることは確実です。法人が各士業に認められ、全国的に支店展開する事務所も現れてくるでしょう。インターネット利用の事務所も現れてくるでしょう。資格をとれば一国一城の主が約束された時代が去り、専門職として生涯をかけるものが、資格社会の構成員の大半になっていくものと考えています。いま、受験勉強されている方々の大半は将来法人若しくは共同事務所で働くことになるでしょう。
 昔は、商売がヘタだから、人付き合いが苦手だから資格を取るという方が大半でした。その結果、業界では過度すぎるほど競争を抑制してきた歴史がありますし、今でも、競争というと拒否反応を示す同業者が殆どです。しかし、聖域はなくなりました。私から見ると、未だに資格者内部の考えと、利用者との間にはかなりの温度差があるように思えます。私としては、各団体の思惑から遅々として進まない司法全般の改革に対しても、少しでも緩和という武器を与えて頂けたら最大限の可能性に挑戦していきたいと考えています。
 ともかく、今、やっと資格制度の改革が端緒についたばかりです。これからは、総合的法律・経済関係事務所以外にも、依頼者のニーズに合った様々な形態が現れてくるでしょう。読者の皆さんも、新しい形態開発に挑戦してみたらいかがでしょうか。         

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